建設工事のリテンション:PPCの留保金計算、上限と銀行保証
建設工事のリテンション(留保金)は、契約で定めた控除率、対象となる出来高金額および上限額に従い、発注者が請負代金の一部を一時的に留保する仕組みです。出来高払申請書・支払証明書(PPC)では、累計の対象金額から上限付きの留保金を算定し、過去の控除額を差し引いて当期分を求めます。銀行の留保金保証によって早期に資金化できる場合もありますが、手数料、担保および保証請求のリスクを別途考慮する必要があります。
留保率と留保金上限額の違い
リテンションは、請負業者の一定の契約上の義務に備えるための金銭的な担保であり、当然に工事代金そのものを値引きする仕組みではありません。留保対象の工事項目、控除率、累計の上限、解除条件、銀行保証による代替の可否は、契約書および個別条件によって決まります。世界共通の一律の割合があるわけではありません。
例えば、各支払証明書の対象出来高から10%を控除する一方、留保金の累計上限を当初契約額の5%と定めることがあります。10%は各期の控除率、5%は累計上限の計算基準です。上限額を求める契約金額と、控除率を掛ける出来高の範囲も区別しなければなりません。
上限付き留保金の累計計算例
当初契約額100万ドル、出来高に対する控除率10%、累計上限5万ドルを想定します。留保金の解除や過年度の調整はまだ発生していないものとします。
| PPC番号 | 当期の留保対象出来高 | 当期の留保控除 | 累計留保金 |
|---|---|---|---|
| 1 | 200,000ドル | 20,000ドル | 20,000ドル |
| 2 | 200,000ドル | 20,000ドル | 40,000ドル |
| 3 | 200,000ドル | 10,000ドル | 50,000ドル |
| 4 | 200,000ドル | 0ドル | 50,000ドル |
第3回では新規出来高の10%は20,000ドルですが、上限まで残り10,000ドルしかないため、実際の控除は10,000ドルです。減額査定、過去の解除、上限の変更などがある場合は契約に従って別途調整します。
出来高払証明書(PPC)での留保金の算定方法
出来高払申請書または証明書(PPC:Progress Payment Application / Certificate)では、当期までの累計額、前回までの累計証明額、当期額を明確に分けます。留保対象額には、契約BOQ(数量明細書)に基づく施工済み工事、承認・実施済みの変更工事、契約上留保対象となる承認済み請求などが含まれ得ます。発注者の請求・控除が留保金の計算基礎を減らすのは、そのように契約で定める場合に限られます。
- 契約上留保対象となる累計の出来高等を確定する。
- その金額に契約の留保率(例:10%)を掛ける。
- 算出した累計額に留保金上限を適用する。
- 前回までに控除した留保額を差し引き、今回控除分を求める。

簡略式:当期留保額 =「累計の対象金額 × 留保率」と「契約上の上限額」の小さい方 − 過去に控除済みの留保額(解除・調整があれば反映)。
重要:承認済みの請求額すべてが自動的に留保対象となるわけではありません。発注者側の請求や相殺は、一般に支払額の別行で処理され、契約の明文がなければ留保金の計算基礎から差し引きません。また、前払金の回収控除は留保金とは別の計算です。負の出来高、訂正、部分解除がある場合は上記の単純な式のみで処理しないでください。
PPC第3回の計算例
| 項目(USD) | 累計 | 前回まで | 当期 |
|---|---|---|---|
| BOQに基づく施工済み工事 | 420,000 | 230,000 | 190,000 |
| 承認・実施済み変更工事 | 30,000 | 20,000 | 10,000 |
| 承認済み請求(本例では留保対象外) | 10,000 | 0 | 10,000 |
| 累計の工事評価額 | 460,000 | 250,000 | 210,000 |
| 前払金回収控除 | 40,000 | 20,000 | 20,000 |
| BOQ+対象変更工事の留保金 | 45,000 | 25,000 | 20,000 |
| 証明済み純支払額 | 375,000 | 205,000 | 170,000 |
留保対象の累計金額は420,000 + 30,000 = 450,000ドルです。10%を適用した累計留保額は45,000ドルで、50,000ドルの上限未満です。前回までに控除された25,000ドルを引くと、PPC第3回の留保額は20,000ドルとなります。別紙の留保金明細表にPPCごとに1行を設け、過去の控除を検証できるようにします。
過去に証明済みの金額と実際に入金された金額は同じとは限りません。以前の証明書が未払いであっても、同じ工事を重複して当期分として証明してはいけません。
変更工事で留保金の上限は増減するか
必ずしも増減しません。上限が固定金額または当初のAccepted Contract Amount(受諾契約額)を基準に設定されている場合、増額・減額の変更工事があっても上限をそのまま維持する契約があります。一方、上限を変更後の契約金額に連動させる規定であれば増減する可能性があります。変更工事が留保対象に含まれることと、上限の基準額が変わることは別問題です。
| 変更後の契約金額 | 当初の固定上限額 | 変更後金額に対する比率 |
|---|---|---|
| 1,000,000ドル | 50,000ドル | 5.00% |
| 1,400,000ドル | 50,000ドル | 3.57% |
| 700,000ドル | 50,000ドル | 7.14% |
逆に、変更後契約金額の5%を上限と定める契約なら、同じ順序で50,000、70,000、35,000ドルとなります。上限が引き下げられても、すでに留保した金額の即時返還を当然に意味するわけではなく、証明・調整・支払手続を確認する必要があります。
留保金の解除予定日と実際の入金日は異なる
引渡しや実質的完成の段階と、欠陥の通知・是正期間後というように、留保金を複数回で解除する契約があります。50%ずつの解除は一例にすぎず、すべての契約に当てはまるルールではありません。解除請求権の発生、支払証明、銀行口座への入金は異なる日時となり得ます。
欠陥通知期間内に適切に通知された是正工事が、その期間の満了後まで続く場合もあります。しかし、これだけで留保金全額の無期限の拘束や保証の延長が当然に認められるわけではありません。詳細は欠陥責任期間・欠陥通知期間(DLP / DNP)の解説を参照してください。
銀行の留保金保証による早期返還
契約で認められ、かつ発注者が受け入れる場合、請負業者は留保金保証(銀行保証、Retention Guarantee)を差し入れ、すでに留保された資金の早期返還や今後の現金留保の代替を受けることができます。発注者は保証を保有し、請負業者は資金を受領します。これは銀行が保証額と同額の現金を融資したという意味ではありません。
保証料、発行手数料、更新料、与信枠の使用、現金担保やその他の担保が必要な場合があります。請求なく保証が終了すれば通常は保証額そのものを銀行へ返済しません。銀行が有効な保証請求に応じて支払った場合には、銀行との求償契約に基づいて請負業者へ償還請求が生じ得ます。
CashflowPotでの資金繰りシミュレーション
キャッシュフロー上の効果を近似するには、基本予測にある本来の留保金返還予定日の入金を残したまま、早期返還日に仮想の資金調達入金、元の返還予定日に同額の仮想返済出金を計上します。予定日の二つのキャッシュフローは相殺されます。あくまで資金繰りのモデル上の扱いであり、保証が請求なく終了した際の実際の借入金返済を意味しません。
| キャッシュフロー項目 | 早期返還時 | 元の返還予定日 |
|---|---|---|
| 基本予測の発注者からの返還 | 0ドル | +50,000ドル |
| 仮想の資金調達入金 | +50,000ドル | 0ドル |
| 仮想の返済出金 | 0ドル | −50,000ドル |
二重計上を避けてください。発注者による留保金返還の入金日をすでに基本予測で前倒しした場合は、仮想の入金と返済を追加しないでください。関連する建設工事キャッシュフローの作成ガイドとCashflowPotの操作ガイドも参照できます。
保証料、延長、部分請求・全額請求の影響
例示的に、50,000ドルの銀行保証を年率2%の手数料で1年間発行すると、追加費用を除く単純な保証料は1,000ドルです。銀行が新たに10,000ドルの現金担保を求めれば、その担保と手数料を控除した即時利用可能額は約39,000ドルになります。同じ料率で保証を3か月延長すれば、追加手数料は約250ドルです(その他費用を除く)。
保証が請求されずに終了すれば保証額相当の元本支払はありません。部分請求で銀行が20,000ドルを支払った場合、請負業者はその額の償還義務を負う可能性があります。全額請求では50,000ドルの負担となり得ます。銀行への償還日は欠陥期間の満了日と一致するとは限りません。期間末の是正リストがあるだけで保証全額の請求が当然に正当化されるわけではありません。
会計処理と支払証明書の照合
留保金は流動性を減らしますが、必ずしも売上高の減額ではありません。契約上の権利と適用会計基準によって、債権または契約資産等として表示される場合があります。支払証明書、控除累計、上限、変更工事、返還額と入金日、保証手数料、担保、保証請求の記録を定期的に照合してください。契約を確認せずに一律の仕訳を使うことは避けるべきです。
ExcelのPPC申請書・留保金管理表をダウンロード
PPC出来高払申請書と留保金管理表のExcelテンプレートをダウンロード。PPC本表、PPCごとに1行の留保金一覧、累計額・前回額・当期額の計算手順を含みます。従来の汎用留保金計算表に代わる推奨資料です。